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この点が独学者やアマチュアを専門学者から区別するのでもある。だがこういうアカデミックな教養は、アカデミー自身の退廃鈍化を覆すだけの力は少しも持たない。却って退廃鈍化を進行させるものこそその際のビルドゥングだということにもなる。つまり今日ではもはや、アカデミックな専門領域の停滞を打破する結果にならざるを得ないような総合的な見地−『総合的な見地』−は、このビルドゥングとは別なものになって了っているのだ。そうすればこのアカデミックな教養は専門的職業人の徒弟的な躾け−『躾け』−のようなものに過ぎなくなる。

モラルというと如何にも気が利いているが、道徳というと道学的に聞える。だがモラルでも案外道学的なニュアンスを有っている。モラルは作家の良心や精進みたいなものに制限されているようだ。併し世俗市井の風俗も立派に道徳的なものなのである。いわば風俗も道徳=モラルの内容なのである。……今日の文壇の尖端ではプロレタリア的モラル派と人民的風俗派とが対立しているように見える。両方とも人気がある。だが私はいいたい。モラル派には『風俗』を与えよ、風俗派には『モラル』を要求せよ、すれば夫が『道徳』になろうと。

声がどうも西田によく似ていると思つて、近寄つて行くと、相手も妹の姿を認めて大声で呼びかけた。その日収容所から始めて出て来たところだということであった。……私が西田を見たのは、

併しそれはそれでよいとして、1体風俗がぞくすると考えられたこの道徳なるものは何であるか。最も通俗的な規定としては、善し悪しを判定する標準のことか、または善し悪しを決める場面のことだろう。

しかし彼の方を顧る人はいなかった。彼はそこに、碁客のそばに、置きざりにされた形になった。

『わたくし、そのようなことは1切、お話しできません。』と彼女は言った。

まあ、農村からひょっくり東京見物に出てきた、猫背の若年寄を想像せられたい。尻からげをして、帯には肥料問屋のシルシを染めこんだ手拭をばさげて居る。どんなことを喋って居るか、それは、ちょっと諸君が傍へ近よって耳を傾けても分らんかもしれん。──小豆島の言葉をそのまままる出しに使っとる。彼にいわせりゃ、なんにも意識して使って居るんではない。笑われてもひとりでに出て来るから仕ようがない。

時事的な作品としてセンセーショナルな興味を惹く予算になっていたらしいのは、『中央公論』[36年7月]付録『日出づる国』である。作者はルネ・ジュグレで原名は『昇る朝日』らしい。2・26の事件直前に2・26事件まがいの物語りを書いたので、予言が当ったといって騒がれているのだそうだ。芸術的に感心出来るようなところは殆どないといっていいが、12カところ、兵士の卒直な実感が出ているのも、作家がフランス人であって日本人でないからに過ぎぬ。しょせん青年将校達の政治的見解に対する作家としての批判などは殆んどないので、これは単に革新キャピタゼーションの提燈持ちにさえなるだろう。

弟かと思うとRが自分で来て、服装まで借して呉れた。僕はRに僕の帽子を被せ、そのキヤツプをスツポリと被り、眼鏡の位置を正し、外袍をまとつて、

それも落ちてくれゝばまだいいのに、引毛の毛筋に縺れてブラ々しているのです。これには流石の豪傑大森晃1もすつかりあわてゝしまひました。幸ひ馬上の狂乱態でしたから急いで扇子を開いて右手に持ち、それと袖とで顔をかくして、義太夫にのつて辛くも揚幕へ逃げ込んだので、観客からは判らなかったでしょうけれど、私は滝の如き汗の上に冷汗の上塗りをしてしまったものでした。師匠も私に輪をかけた汗かきでしたが、その追善興行に私が大汗をかいたのも何かの因縁でしょう。

この詩集の出版元文淵堂は、その後東京に店を移しましたが、その頃は大阪心齋橋南本町の東北にあった角店で、店の主人種次郎氏は當時2〇12才の美しい若者でした。4〇23才まで獨身でいて、たゞもう出版事業に專念していた風變りの男で、先年與謝野晶子夫人が、

或は1人の人の口から……既成大家と未成大家とを問わず、ある1人の人の口から……じかに発せられることがある。或は幾人かの集団の雰囲気から、自然に発してくることがある。或は批評の言葉の中から、叫び立ててることがある。或は作品の行と行との間に、潜み籠ってることがある。しかしながらそれは常に、ある魂から生れてくる、粉飾のない赤裸な魂から生れてくる。

言い直したな。


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